CD
■ G・ビゼー作曲/「アルルの女」組曲
第1組曲はビゼー自身、第2組曲はギローによる編曲。
名曲中の名曲。「前奏曲」や「間奏曲」のサキソフォン、こんなに魅力的なソロは、他のオーケストラ曲では(吹奏楽曲であっても)、ちょっと思い付かない。
第2組曲「メヌエット」はフルート独奏曲として有名(誰もが一度は吹いてみる『定番』)だけれども、オーケストラでは途中からオーボエが加わったり、サキソフォンの対旋律が加わったりと、さらに魅力を増す。
そして「カリヨン(鐘)」中間部のフルートのデュエット(途中からオーボエも加わる)。単純な3度の進行に始まり、やがて互いに呼応する。これも何と見事なことか。ここだけフルート2本で吹いても楽しめる。
▲ A・クリュイタンス指揮/パリ音楽院管弦楽団
1964年録音。 LP時代から『決定盤』として知られている録音で、それに異存は無し。このデザインもLP時代からお馴染み。
何と言ってもそのサウンド、遅いテンポと緩めのアンサンブルは、素朴でローカルな雰囲気を出している。
サキソフォンやホルンは、ちょっとしたフレーズにも何とも言えない味わいがある(「パストラーレ」など)。
「カリヨン」冒頭のホルンは、パッと陽の光が射してきたように鮮やか。そして「ファランドール」クライマックスでの金管楽器。
▲ E・アンセルメ指揮/スイス・ロマンド管弦楽団
1958年録音。
個人的にLP時代から一番馴染んでいた演奏がこれ。
しかし、LPでは第2組曲は「メヌエット」と「ファランドール」の2曲しか収録されていなくて、アンセルメが第2組曲も全曲録音しているのを知ったのはCD時代になってからだった。
収録時間の関係からか2曲カットされてしまったのか、裏面の「カルメン」組曲でも「夜想曲」がカットされていた。
硬質でキラキラと明るいサウンドが魅力で、「前奏曲」の後半部とか、ぐんぐん加速する「ファランドール」のエンディングなど、意外に『熱さ』を感じさせる演奏でもある。
ちなみに、国内盤で「『ファランドール』の冒頭が欠落している」というレビューを見かけたけれど(私は未確認)、これは欠落していません。
アンセルメのビゼー録音と、トゥリーナ作曲の「幻想舞曲集」が収録された、素敵な2枚組。
▲ H・レーグナー指揮/ベルリン放送交響楽団
サウンドはソフトであるけれども、ラテン系の明るさは無く、ほの暗い、日の差さない森の中のような雰囲気を持っていて、これは「ファランドール」でも変わらない。
所々で金管やティンパニが強調され、サキソフォンの音色もフランス系の演奏とは異なる。
プロヴァンス太鼓のパートはタンバリンで演奏。ただ、「ファランドール」では、妙にテンションが低くて無表情。
「間奏曲」の冒頭のユニゾンなどは、他に聴いたことがないような表情で、最初は相当に戸惑ってしまう。ただ、サキソフォンの伴奏の弦楽器の8分音符をピチカートにしているのは『有り』かと思う。
とにかく独特の感覚を持った演奏で、初めてのCDとしてはオススメできないにしても、いくつもの録音を聴いている人には、「こういう演奏もあるのか」と面白く聴けるのではなかろうか。
▲ J・フルネ指揮/東京都交響楽団
2003年4月19日、サントリーホールでのライブ録音。第2組曲のみ。
1曲目の「パストラーレ」から遅めのテンポによる、悠揚たる音楽。そして透明感のある瑞々しい響き。
「ファランドール」は、プロヴァンス太鼓のリズムと共に高揚するけれども、決して周りを煽り立てるだけの大騒ぎではない。暖かく、幸福感、そして光に満ちている。
しかし、フルネさんがご健在の頃は、こんな音楽が定期的に聴けたのだなぁ...。
個人的な思い入れも含めて、別格の演奏。
▲ E・マルケヴィッチ指揮/コンセール・ラムルー管弦楽団
1959年録音。これは素晴らしい演奏。オケの明るいサウンドもいい。
オケからすれば自分たちのレパートリーなのだろうけれども、雰囲気に流れることなく、マルケヴィッチは手綱を引き締め、迫力のある演奏を作っている。
「アダージエット」は「pp」の指定に拘ることなく、とても豊かな美しい音楽になっているし、「ファランドール」の速めのテンポも心地いい。最後の熱狂はコンサートであれば「ブラヴォー!」間違い無し。
こちらは輸入盤。しかし...第2組曲の「間奏曲」がカットされているので要注意。
▲ カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1970年録音(録音年注意)。
ドラマチック、流麗な演奏。弦楽器のポルタメントなどはカラヤン流。素朴さやローカルな味わいは薄い。
それはさておき、ゴールウェイがフルートを、デュファイエがサキソフォンを担当していて、それが最大の聴き物。
特に、第2組曲の「メヌエット」はファン必聴です。「カリヨン」の中間部も。
プロヴァンス太鼓をタンバリンで叩かせているのはレーグナー盤と同じ。
私が所有しているのは、この輸入廉価盤。「カルメン」組曲、「アルルの女」組曲、オペラ間奏曲集(6曲)を収録。
▲ L・マゼール指揮/クリーヴランド管弦楽団
1978年録音。
「前奏曲」は意外にソフトなタッチ。木管アンサンブルによる第1変奏はとてもいい。後半部、サキソフォンのソロからは速目のテンポでサクサクと進む。これは以後も同じ。
「パストラーレ」もテンポが速い。演奏時間を比較してみると、
フルネ 6'21"
アンセルメ 5'42"
デュトワ 5'47"
マゼール 4'49"
思い入れやら、ローカルな雰囲気とは無縁の演奏。これはこれで楽しめるけれど...。
第2組曲の「間奏曲」がカットされていて、また「メヌエット」後半のサキソフォンをファゴットに置き換えている(スコアにキューは書かれているけれども...)。
結局、マゼール・ファン以外にはちょっと...といった感じではある。
▲ C・デュトワ指揮/モントリオール交響楽団
1986年録音。
決してやり過ぎない節度があり、優美で、品がある。管楽器も上手く、まずは最初にオススメできる演奏。フルートのソロはT・ハッチンス。
▲ P・パレー指揮/デトロイト交響楽団
1956年録音。これは素晴らしい演奏。
遅めのテンポで始まる「前奏曲」は、この音楽が悲劇に付けられたものであることを強く感じさせる。
そして、間を置かずに始まる快速の「メヌエット」。鮮やかなコントラスト。ここで、物語の幕が開くのだ。
「カリヨン」も遅めのテンポのスケール感のある音楽。
「ファランドール」も遅めのテンポ設定。「前奏曲」のテーマが再現して、悲劇と群衆の祭りが交錯し、最後は喧騒の中に飲み込まれていく。
▲ M・プラッソン指揮/トゥールーズ・キャピタル管弦楽団
1992年録音。第1組曲のみ。
オーケストラの素朴で暖かなサウンド。重くならずに、音楽の流れが自然で、過度の表現に陥ることも無く、「この曲、斯くあるべし」といった素晴らしい演奏。
オリジナルの劇付随音楽版を意識した曲作りなっているようにも感じる。
第1組曲のみの収録だけれども、第2組曲は第三者(ギロー)による編曲であることや、そこに「アルルの女」以外の曲も含まれていることなどからだろうか。
カップリングの「カルメン」組曲も、前奏曲と間奏曲のみ(4曲)の収録。
▲ H・ケーゲル指揮/ドレスデン・フィルハーモニー
ビゼーの側に歩み寄ることなく、完全に自分流の音楽に仕立ててしまっている。
細かい所を書き始めたらキリが無いけれども、一番ビックリするのは第2組曲「間奏曲」の中間部。
アルト・サックスと一緒に演奏しているホルンをトランペットに置き換えて、しかも朗々と吹かせているため、完全にトランペットのソロの様になってしまい、全く別物の響きがする。
色々な賛辞も目に付き、確かに『面白い』演奏だとは思う。
しかし、「ビゼーの『アルルの女』を聴きたい」という時に、この演奏を聴こうという気にはならない。
▲ L・ストコフスキー指揮/ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団
1976年録音。
まず「第1組曲」が素晴らしい。
「前奏曲」での各変奏の描き分け。最後は少しリタルダンドして、雰囲気を変えて後半部へつなげる。
遅いテンポの堂々とした「メヌエット」。「カリヨン」の中間部も遅いテンポで、消え入るような美しい音楽。
スコアを改変するようなことはせずに、真っ向勝負の名演奏。
ただし、「第2組曲」では、「パストラーレ」は中間部のみの演奏。次の「間奏曲」はカットして(演奏せずに)、「メヌエット」、「ファランドール」。「メヌエット」はもう少しソロの魅力が欲しい。
▲ ジャン・モレル指揮/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団
1958年録音。モレル(1903-1975)はフランス生まれの指揮者。
これが予想外にいい演奏。力を抜きリラックスした、その中に情感、ニュアンスを感じさせてくれる。明るく、柔らかなオケのサウンドもいい。何といっても、音楽が『明るい』。
「カリヨン」の中間部は付点のリズムの取り方が独特。速いテンポで進められる「牧歌」の中間部も面白く、効果的だ。
「間奏曲」の中間部のサキソフォンも出しゃばることはないけれど、十分に存在感がある。
ちなみに、カップリングの「スペイン狂詩曲」は(演奏は素晴らしいのですが)チャネルの左右が逆でした...
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