ムソルグスキー 交響詩「禿山の一夜」
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■ M・ムソルグスキー作曲/交響詩「禿山の一夜」
作曲者自身によるバージョンが2種類(1867年版、1980年版)。一般的に演奏(録音)されているのは、リムスキー=コルサコフによる編曲版。
【1867年版(原典版)】
オーケストラのみによる初版。いわゆる「原典版」。
▲ ドホナーニ指揮/クリーヴランド管弦楽団
1988年録音。このコンビが演奏するのでであれば、やはり、この過激な「原典版」の方が相応しい。
荒々しく粗野ではあるけれども、一般的に演奏されるリムスキー=コルサコフ版よりも、はるかに大胆で斬新な(新しい)響きがする。
▲ C・アバド指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1993年録音。この「原典版」が知られるようになったのは、アバドの旧録音盤(ロンドン交響楽団、1980年録音)からだろうか。
こちらはベルリン・フィルとの新録音盤。さすがのベルリン・フィルと言えども、この難曲に苦労している感がある。
また、木管楽器のメロディにトランペットを重ねたり、エンディングも強めの音で終わらせたり(オリジナルは「mf」からディミヌエンド)、演奏効果を上げるためとはいえ、オリジナルの味わいを若干損ねているようにも感じる。
ちなみに上記のドホナーニ盤はスコア通りなので、エンディングも「え??」という感じで終わってしまう。
【1980年版(コーラス付き)】
原典版を、歌劇「ソロチンクスの市場」の間奏曲として使用するために編曲された版。コーラスとバス・バリトン独唱が加わる。
■ 禿山の聖ヨハネ祭の夜
▲ C・アバド指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1995年録音。「原典版」よりもコルサコフ版い近い雰囲気を持っていて、最後も夜明けの音楽で静かに終わる。
それでも、コルサコフ版よりははるかに刺激的でインパクトのある音楽を聴くことができる。
【コルサコフ(通常)版】
通常演奏されるリムスキー=コルサコフによる編曲版。
▲ F・ライナー指揮/シカゴ交響楽団
1959年録音。
最近は原典版の録音も多いけれども、どちらがいいと比較するものではなく、こちらはあくまでコルサコフ作品として楽しむものだと思う。
冒頭の低弦の4分音符から前のめりになって突っ走る、快速演奏。どんどんテンポ・アップしていく、そのアンサンブルも素晴らしい。
迫力はあるけれども、ロシア的な土臭さ、重量感は皆無。むしろ爽快感がある。
化け物が退散してからの部分は、下手な演奏だと、もうどうでもよくなるのだけど、ライナーは緊張感を保ったまま、最後まで不穏な空気を漂わせて曲を閉じる。
夜が明けるのではなく、ようやく夜の静けさが戻ってくるのだ。
▲ E・スヴェトラーノフ指揮/ソビエト国立交響楽団
1974年のメロディヤ録音。
ライナー&シカゴ響の疾走感に、金管・打楽器の荒々しさ、土臭さが加わった、最強の演奏。
金管楽器のテーマ(下記)で、グッとテンポを落とすところもカッコイイ。
教会の鐘が鳴ってからの夜明けの場面は、さすがにライナーの方が雰囲気が出ている。
ちなみに、1992年録音のCANYON盤は基本的には同じアプローチ。標準ラインからすると、かなりいい演奏だとは思うけれども、1974年盤を聴いてしまうと物足りない(打楽器のミスも有)。
▲ C・シメオノフ指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1980年録音。正直、耳馴染みのない指揮者だけれども、この演奏はなかなか面白い。
スヴェトラーノフのような爆走(暴走?)系ではない、意外に落ち着いた音楽運び。
重量感があり力強い金管楽器のサウンド。むしろ健康的な感じもある。
ユニークなのは教会の鐘が鳴ってからの夜明けの音楽。
音楽はいきなり重苦しくなり、どんよりと暗い影が落ちる。夜明けの清々しさなどは皆無。魑魅魍魎、妖怪たちとの闘いに疲れ果ててしまった人間の姿のようでもあり、そのムードのまま曲を閉じる。
【レイボヴィッツ版】
コルサコフ版をベースに指揮者のレイボヴィッツが編曲したもの。
▲ L・レイボヴィッツ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1962年録音。
一種の『ネタばらし』がCDの帯や解説、あるいはレコード店でのキャッチ・コピーに書かれてしまっているので、過剰な期待を抱いて聴くと肩透かしを食らうことになる。
例えばストコフスキー版を知らない人が何の予備知識も無しにこの演奏を聴けば、それなりのインパクトはあるかもしれない。
ただ、それ以上のものは無く、上にあげた作曲者自身による版の方がはるかに面白く聴ける。
そんな中で面白いのがコーダで、教会の鐘が鳴って夜が明けて平和に終わるかと思いきや、なにやら不穏な雰囲気が漂いはじめ、冒頭にトロンボーンなどの低音金管で現れたテーマが再現し、結局は盛り上がって強奏で終わるのだ。
【ストコフスキー版】
▲ L・ストコフスキー指揮/ロンドン交響楽団
1966年録音。
映画「ファンタジア」でも演奏されていた、ストコフスキー編曲版(ただし、終結部は映画と異なる)。最近はストコフスキー以外の指揮による録音も出ているけれども、まずは、ご本人の録音で聴いておきたい。
コルサコフ版をベースに、カットを行ない、オーケストレーションを変更。
金管楽器によるファンファーレ風のテーマは一切カットされていて、このテーマは原典版には無いものなのだけれども、それを知ってのことだろうか。
それはさておき、何ともおどろおどろしい演奏で、メロディが同じという以外は、原曲とは全くの別物。
で、何と言っても驚くのは最後の夜明けの場面。これは間違いなく見事に、しかも壮大に夜が明ける。
▲ M・バーメルト指揮/BBCフィルハーモニック
1995年録音。
ストコフスキー自身の録音に抵抗がある人も、こちらは結構楽しめるのではなかろうか。
大袈裟な下降音形で化け物が退散し、その後にやって来る静けさの表現は素晴らしく、そこから盛大な夜明け(日の出)に繋がっていく。
コルサコフ版をさらに派手にしたような雰囲気。カットが多いけれども、その分、だれることなく曲が進行する。「コルサコフ版は退屈」という人にもオススメできる。
【映像(原典版)】
▲ C・アバド指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1984年10月14日、サントリーホールでのライブ録画。
この『原典版』、確かに構成的にはとりとめないところもあるけれども、大胆で、斬新で、パワフルで、奇々怪々...ムソルグスキーというのは本当にこんな凄いスコアを書いていたのだろうかと、俄かには信じがたい気もする。
一般的に知られているのは、リムスキー=コルサコフによる編曲版だけれども、こちらは見事に整理・整頓され、最後に『夜明け』の場面を追加するなど、ストーリー性も十分。
しかしながら、オリジナル版の強烈さ、鮮烈さはすっかり削ぎ落とされてしまい、早い話が完全に(優等生的な)コルサコフの音楽になってしまっている。
アバド&BPOの1994年来日公演のライブ(TVでも放送されました)。
若々しいアバド。元気いっぱいで、本当に楽しそうに、溌剌と指揮をしている。
フルートのトップは入団したて、まだ20代前半のパユ(見るからに若い)。
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