リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」
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■ リムスキー=コルサコフ作曲/交響組曲「シェエラザード」
▲ E・アンセルメ指揮/スイス・ロマンド管弦楽団
1960年録音。昔から名盤として定評のある録音。西欧的な(非ロシア系の)演奏としては、私はまずはこれ。
LP時代から聴いていたけれども、今聴き直しても本当にいい。
何と言っても、サウンドに色彩感があり、カラフルな絵巻物を見ているような味わいがあり、でも決してどぎつく(けばけばしく)はならない。
ローラン・フニヴのヴァイオリンは艶やか。
冒頭のテーマも、迫力はあるけれども、決してやり過ぎない。ただ、デカイ音を出せばいいというものではない、そのバランスが素晴らしいのだ。
第2楽章のフランス式バッソンの音。第3楽章は本当に自然に音楽が流れ、その中に何とも言えぬ叙情性が漂う。終楽章は落ち着いたテンポ、勢いだけで持って行くことはない。
難破の場面でのトロンボーンの迫力、そしてトランペットの輝かしい高音。
細かいミスや、技術的に危なっかしい部分などあるけれども、それを遥かに超えた魅力のある演奏。
ただし、コッテリ味の演奏を求める方にはオススメしません。
▲ E・アンセルメ指揮/パリ音楽院管弦楽団
1954年録音。
アンセルメの「シェエラザード」と言えばLP時代からスイス・ロマンド管盤が有名だけれども、これもそれに負けないくらいの素晴らしい演奏。
何と言ってもオーケストラのサウンドが魅力で、ヴァイオリンのソロ、そして、ヴィブラートをたっぷり効かせたホルン。
アンセルメは例によってスッキリと、これと言って変わったことしてはいないのだけれども、これで十分ではないか。
例えば、第3楽章「若き王子と王女」の終わり近く(198小節目)のヴァイオリンの旋律。
アンセルメはイン・テンポでさらっと流しているようだけれども、ここで感じられる情感、名残惜しさは、他の演奏からは決して聴く事が出来ない。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
2003年のライブ録音。VISTA VERA盤。
少々荒っぽいけれども、とても魅力的な演奏。
冒頭のユニゾンによる「王の主題」、それに続く木管の和音はいともアッサリと演奏され、あっという間にヴァイオリンのソロに入る。
主部は重量感がありながら前へ前へと進む音楽、チェロとヴィオラの上下する4分音符、大きな波をかき分けながら進んでいく船の姿が浮かんでくる。
第2、3楽章はテンポや表情の変化が大きくつけられ、正に物語を聴いているようであり、終楽章の祭りのテンポ、難破の場面の迫力も十分。
そしてコーダのヴァイオリンのソロの後、何と冒頭の主題が低音で再現する部分(10小節)をカットして、すぐに木管の和音に入ってしまっている...スッキリしているけれども、これはさすがに抵抗がある人もいるだろう。
ちなみに、1994年録音のCANYON盤は意外に普通(一般向け)だったのに比べ、こちらはフェドセーエフのやりたい音楽をやり、それがこなれてきたような感じがする。
なので、私は断然こちら(VISTA VERA盤)を取ります。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1994年録音のCANYON盤。ソロ・ヴァイオリンを(何故か)日フィルのコンサート・マスターである木野雅之氏が担当。
▲ E・スヴェトラーノフ指揮/ロンドン交響楽団
1978年録音のEMI盤。
巨大なスケール、濃厚な雰囲気。他には真似のしようが無い、超ド級の演奏。遅いだけではなく、第4楽章のテンポの速い部分はガンガン攻める。
スヴェトラーノフが西欧のオケを振ると、意外にフツーになってしまうこともあるのだけれども(例えば、このCDのカップリングのグラズノフ「四季」など)、この「シェエラザード」は大当たり。
ソビエト国立響を振った古い録音もあるけれども、パワーはさすがにしても、音楽はやや単調で、こちら(ロンドン響)のほうが断然イイ。
ちなみに、アンセルメ&スイス・ロマンド管盤との演奏時間比較は下記の通り。
アンセルメ 10:07/11:09/9:34/12:26
スヴェトラーノフ 12:38/12:46/11:47/12:19
▲ M・ロストロポーヴィチ指揮/パリ管弦楽団
1974年録音。
冒頭から、かなり大袈裟な感じがするし、気持ちを前面に出している部分も多いけれども、何はともあれ、オケがパリ管であることが大正解。
華やかな色彩感があるし、響きが決して重くならずに、指揮者の音楽と上手く中和されている。そして、何があっても、どんな場面でも、オーケストラの『音』で聴かせてしまう。
これが例えばロンドン・フィルだったら、こうはいかなかったのではなかろうか。
▲ H・シェルヘン指揮/ウィーン国立歌劇場管弦楽団
1957年録音。
第1楽章の海の音楽。遅いテンポの弱音で、驚くほど静かに始まる。確かに『難破』するのは第4楽章なのだからこんなものか。それ以前に、まだ海へ出ていないような感じもする。
しかし、なぜにそんなに思い詰めているのだ??>シンドバット。
第2楽章はトロンボーンのソロがやたらと元気がいい。期待の第3楽章は速目のテンポでサクサクと進行する。
第4楽章前半の「祭り」の場面では、トランペットが「プカプカ」と妙に野暮ったい音を出す。
そして、クライマックスでの第1楽章の再現。ここは豪快に鳴らしたスケールの大きな音楽。その後の結びの部分も遅いテンポでじっくりと進める。
▲ F・ライナー指揮/シカゴ交響楽団
1960年録音。
ロシア的な土臭さはもちろん、情景描写とか物語性とかにも無関心、スヴェトラーノフやロストロポーヴィチの真逆にいるような演奏。
さすがにこれはアッサリ、スッキリし過ぎ。この曲に何を求めるかだろうけれども、あえてこの演奏を聴きたいとは思わない。
ただし、第3楽章だけは別。遅めのテンポで、思い入れたっぷりにルバートをかけてメロディを歌わせてくる。
基本スタンスは他の楽章と同じなのかもしれないけれど、ここだけはとてもイイのだ。ライナーってこういう演奏もするのか...。
▲ V・ゲルギエフ指揮/キーロフ管弦楽団
2001年録音。
オケの響きは厚く、ぎとぎとの超濃厚な雰囲気。ヴァイオリンのソロによるシェエラザードのテーマは、美しいお姫様というより、怪しげな占い師のオバ●ンのよう。
しかしながら、第1楽章はとても音楽の流れがいい。第2、3楽章も同様なのだけれども、基本『メロディ』で押してくる。よく見れば、この曲は単純にメロディがつながっていて、それにいかにお化粧するか、そういう音楽なのだ。
第3楽章あたりで、さすがに胃がもたれてきて、第4楽章はテンポが速い上に、打楽器がガンガン鳴って、響きが混沌と訳が分からなくなってしまった。
『ロシア風』と言うより、『ゲルギエフ風』。相当にキャラが強い演奏であるのは間違いなし。そういう意味では、今どき貴重ではある。
▲ E・オーマンディ指揮/フィラデルフィア管弦楽団
1962年録音。CBS盤。
スコアの変更やカットはあるものの、何ら奇を衒うことのない自然な音楽。
それを聴かせてしまうのは、指揮者とオーケストラの力だろうか。
特に弦楽器を中心とした第3楽章は聴きもの、王子と王女の甘いラブストーリーが展開される。
その第3楽章、ヴァイオリンの独奏に続くクライマックスの後が大きくカットされているけれど、個人的にはこれでもOKです(むしろこちらの方がイイかも)。
表面的な『解釈』ではない、オーケストラと指揮者の音楽で聴かせる、素晴らしい演奏。
カップリングは「火の鳥」組曲。
▲ 山田一雄指揮/東京都交響楽団
1980年5月16日、新宿文化センターでのライブ録音。
素晴らしい演奏!
決して大袈裟な表情は付けていないけれども、心のこもった音楽、音楽は自然に流れる。
オーケストラもとてもいいサウンドがしているし、管楽器のソロも◎。
そして何より当時のコンサートマスター、小林健次のヴァイオリン独奏が素晴らしい。
「日本のオケ」と侮るなかれ。
【映像】
▲ E・オーマンディ指揮/フィラデルフィア管弦楽団
1978年のライブ録画。
奇を衒うことのない正攻法の演奏。オーマンディの指揮は力強く、時に熱い。
木管だけでなく金管楽器も人数を増やし豊かにゴージャスに鳴らす。ヴァイオリンのソロはN・キャロル。
どことなく『軽く』見られることもあるようなこのコンビだけれども、その認識を変えさせてくれるような映像ソフト。
▲ S・チェリビダッケ指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団
1982年、客の入っていないスタジオ(?)での録画。映像はカラーだけれども、音はモノラル。
冒頭の王の主題からして、他の指揮者では聴けないような、独特の表情が付けられている。第2楽章最初のファゴットなど、テンポが極端に遅い部分もあるけれども、全てがそうではなくて、逆に煽るような部分もある。
第3楽章の舞曲風の音楽は非常に遅いテンポで始められ、また色彩感も素晴らしい。何より、このテンポをキープしている、打楽器奏者(小太鼓)が「◎」。
本当に楽しそうに身体を揺らして指揮をする場面もあれば、あからさまに不満気な表情をすることもある。
最後の難破の場面の迫力、エネルギーは凄まじい。
クセが強いので好き嫌いはあるだろうけれども、しかし緊張感が貫かれていて、逆にこのくらいでないと、この曲は面白く聴けないかもしれない。
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