ブリテン 青少年のための管弦楽入門
CD
■ B・ブリテン作曲/青少年のための管弦楽入門
副題は「パーセルの主題による変奏曲とフーガ」。
いわゆる『楽器紹介』の曲。何気に音楽の授業で聴かされた曲ではあるけれども、『観賞用』としてもとてもよく書けている名曲。
主題の提示の後、変奏をオーケストラの各楽器(パート)が順々に行っていく。管楽器の変奏はソロではなくて、そのパートのアンサンブルになっているところもミソ。
ブリテンのオリジナルの主題による最後のフーガは、ピッコロから始まって、フルート、オーボエと、これまた各パートが順番に入ってきて、最後に打楽器まで行った所で、このフーガの主題に大元のパーセルの主題が金管楽器で(今度は長調で)重なり、そして、打楽器のリズムを強調したエンディング。
とても上手くできている構成で、元のアイデアは依頼元(BBC)なのかもしれないけれど、ブリテンは見事にその要望に応えて見事な作品に仕上げていて、最高級の職人技と言える。
また、スコアにはナレーションを入れない場合の演奏方法も併せて書かれていて、「ピーターと狼」などとは違って、ナレーション無しでも十分成立する。
【ナレーション無し】
▲ B・ブリテン指揮/ロンドン交響楽団
1963年録音。私が最初に聴いた録音で、それ以来の愛聴盤。まずはこの演奏を。
きびきびとしていて、明快でクリア。屈託のない演奏は、この曲に相応しい、まさに『入門』といった感じ。
カップリングは「シンプル・シンフォニー」と「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」。
▲ ネーメ・ヤルヴィ指揮/ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団
1988年録音。
オケによるのか録音によるのか、とても落ち着いた雰囲気の、恰幅のいいスケール感のある演奏。
この曲、息子(パーヴォ)も録音していて、そちらの方が注目されがちだけれども、私はこちら(父盤)を取ります。
カップリングは「4つの海の間奏曲」、「チェロ交響曲」、ペルト作曲の「ブリテンへの追悼歌」と渋いところ。
▲ A・プレヴィン指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1985年録音。このプレヴィン盤は、品の良い、また余裕を感じさせる、『大人の』演奏。
刺激を求める向きには物足りないかもしれないけれど、オーケストラの音もテクニックも申し分なく、落ち着いて聴くことができる。
カップリングはオペラ「グロリアーナ」から「宮廷舞曲」と、「ピーターと狼」(語りはプレヴィン自身)。
▲ L・ペシェク指揮/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
1989年録音。指揮者の色が強く出ていない分、曲そのものを素直に楽しめる。個人的に好きな演奏。
▲ E・オーマンディ指揮/フィラデルフィア管弦楽団
1957年録音。遅めのテンポでの余裕のある音楽運び。
明るくて豪華なサンドは『ブリテン作品』としてはちょっと違和感もあるけれども、曲が曲だけに十分楽しめる。
▲ L・ストコフスキー指揮/BBC交響楽団
1963年のライブ録音。
重々しく始まる最初のテーマは後半部で大きくテンポを落としていく。各変奏ではそれぞれに独特の表情が付けられ、特にテンポが遅い変奏ではコッテリとしたロマンチックな味わいを持つ。
終曲のフーガは最後へ向けてどんどんテンポを煽り、大きくアラルガンドして曲を締め、会場は大喝采となる。
▲ G・ロジェストヴェンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1960年9月9日、エジンバラでのライブ録音(モノラル)。とにかく興味津々のプログラム。
力強い弦楽器、金管楽器の独特の太いサウンド、パワフルだけど今一つまとまりの無い打楽器等々...(ある意味)期待は十分満たされる。
ただ、曲に慣れていないこともあるのか、危なっかしい箇所も多々あり、そして最後の「フーガ」になって悲劇が...。
まず、ピッコロの主題をフルートが追いかける所で、混乱してアンサンブルが乱れる。伴奏の無い2声の部分なのでこれはツライ。何とか立て直すも、バイオリンの掛け合いも結構アヤしい。
そして遂にエンディングでシンバルが完全に見失い、全く関係ないところで「ジャン・ジャン」叩きまくり、支離滅裂のまま最後の和音に突入。「ああ、無事終わった!(安堵)」
この曲は1946年初演なので、当時は『新曲』の部類だったろうし、曲を聴いたことのない奏者も多かったのではなかろうか(『西側』の曲だし)。しかし、何と言っても、当時のソビエト(東側)を代表するオケ。「いくらなんでも...」と思わないでもない。
演奏後、聴衆は拍手喝采ではあるけれども、あくまで「ドキュメント(記録)」として楽しむ録音だろう(これを<楽しめれば>だけれど...)。
なお、この曲の後にアンコールで演奏された、「タイボルトの死」が収録されているのが嬉しい(曲名を告げる指揮者の肉声付き)。
カップリングはプロコフィエフ作曲の「交響曲第5番」(1971年ライブ)。
▲ S・ラトル指揮/バーミンガム市交響楽団
1995年録音。スッキリとまとまった、洗練された雰囲気の演奏。
弦楽器を対向配置(第1、2ヴァイオリンを左右に分けている)にしているので、ヴァイオリンの変奏やフーガでの掛け合いの効果が面白い。
【ナレーション付き】
▲ J・ランチベリー指揮/メルボルン交響楽団
1997年録音。ナレーション入り。
ナレーション(英語)を担当しているのはデイム・エドナ・エヴァレッジ(Dame Edna Everage)。
この方はオーストラリアのコメディアン、バリー・ハンフリーズが女装したキャラクターだそうで、このCDでも女装...要は、女性の声色を使ってます。
地元では(?)結構有名な方のようですけれども、私は知りません...ただ、決して悪ふざけしている訳ではないので、『キワモノ』感はないです。写真を見るとちょっと引きますが...
で、肝心の演奏の方はとても良くて、明るい雰囲気を持った、真っ当なものです。
カップリングは「ピーターと狼」、「小象ババール」。
▲ H・ケーゲル指揮/ドレスデン・シュターツカペレ
1971年録音。ナレーターはロルフ・ルードヴィヒという方。ただしドイツ語。対訳が付いているけれども、一般的な楽器紹介を淡々と語っている。
遅いテンポの「主題」は重々しくドラマチック。小太鼓のガチガチのリズムはドイツ・マーチのように聞こえる。
1つ1つのヴァリエーションをキチンと描き分けていて、独特の雰囲気を持つけれども、オケがいいので聴き応えがある。特に弦楽器のヴァリエーションがいい。
カップリングは「ピーターと狼」。
【両バージョン収録】
▲ E・ボールト指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
1956年録音。
テーマから速めのテンポ、楷書体の硬派な演奏。トロンボーンとチューバの変奏ではテンポを落としてスケールの大きさを感じさせる。
フーガのテンポも遅めで、スコアに書かれている色んな音符が聞こえてきて面白い。
A ボールト自身によるナレーション付き(モノラル)
B ナレーション無し(ステレオ)
の2種類が収録されていて、演奏そのものは同じ。
これはどちらも楽しめるけれど、スコアは「ナレーション付き」の方を演奏しているので、「B」は聴きなれている演奏とは、各変奏のつなぎの部分が違っている。
下は録音当時のボールトの写真。
ボールトは1889年生まれなので、この時すでに70歳近く。しかし、そのナレーションは風貌や年齢からは想像も付かない、若々しくソフトな、また品のある語り口で、とても分かりやすい。
【映像(ナレーション無し)】
▲ マイケル・ティルソン・トーマス指揮/サンフランシスコ交響楽団
2011年9月7日、「創立100周年ガラ・コンサート」からのライブ録画。ナレーションは無し。
ノリ良く、楽しそうに指揮しているトーマスに比べ、奏者は真剣な目つき。
あくまで「オーケストラ作品」として、それぞれの変奏を描き分ける。
こういった遊び心のある楽しい曲は、この指揮者にピッタリだと思う。
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