メンデルスゾーン 劇付随音楽「真夏の夜の夢」
CD・BD
■ F・メンデルスゾーン作曲/劇音楽「真夏の夜の夢」
正式な『組曲』というものは無いけれども、オーケストラだけで演奏する場合は以下の曲の組み合わせになる場合が多い。
序曲
スケルツォ
夜想曲
間奏曲
結婚行進曲
「全曲盤」と記載されていても、台詞のバックで演奏されるメロドラマが省略される場合もある。
ここでは、便宜的に以下の様に区分けしています。
【組曲】 オーケストラのみによる曲の抜粋
【全曲・抜粋】 声楽も含めた演奏
【全曲・抜粋】
▲ J・ネルソン指揮/パリ室内管弦楽団
この劇音楽のいくつかのナンバーは『メロドラマ』(台詞の伴奏・BGM)として書かれていて、これを台詞抜きで演奏してしまうと間が抜けてしまう。
そのため台詞無しの演奏(録音)の場合、原則として『抜粋版』での演奏になってしまうのだけれども、このネルソン盤は役者による台詞も入れて、メンデルスゾーンの書いた音楽を全て演奏するという趣向。
当然のことながら、音楽だけ聴くのとはまた違った趣があってとても面白い。
(おそらく)小編成で弦は対向配置。すっきりとした軽いサウンドの中で、丁寧に音楽が作り込まれている。ただ、「夜想曲」あたりはもっと雰囲気が欲しいかも。
演奏時間は70分弱。音楽だけを楽しみたいという向きは、他にハイライト盤が多数出ているのでそちらを選択すれば良し。
J・テイト指揮/ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
1990年録音。
同じ演奏者による台詞も入った『全曲版』が存在していて(未聴)、これはそこからの抜粋版のようです。
モダン楽器による演奏なのだけれども、「序曲」での管楽器の活かし方などオリジナル楽器による演奏のような雰囲気もあり、ソフトで暖かみのあるサウンド。重くならない軽やかな音楽。
ちなみに、この「序曲」を作曲した時、メンデルスゾーンは17歳。今の日本でいえば高校生。
形式を踏まえつつ、ロマンチックでファンタジーにあふれた豊かな音楽。
管楽器の活かし方も素晴らしく、オフィクレイド(現在はチューバで代用)も単なる低音部の補強ではなく、ソロ楽器としての役割を全うしている。
再現部前の憂いのある表情も、完全に『大人』のものだ。
やっぱり『持ってるもの』が違うとしか言いようがない。
▲ P・ヘレヴェッヘ指揮/シャンゼリゼ管弦楽団
1994年録音。
抜粋版。オリジナル楽器による演奏。
透明感のあるサラサラとしたとした肌触りが魅力的。
管楽器はメリハリが効いているけれども、常に軽やかであり、このサウンドはメンデルスゾーンの音楽にピッタリだと思う。
▲ A・プレヴィン指揮/ロンドン交響楽団
1976年録音。
以下の2つの特徴がある録音。
(その1)全ての音楽を収録した『全曲版』
(その2)コーラスを児童合唱が担当
台詞は入っていないけれども、メンデルスゾーンの書いた音楽を全て演奏している『全曲版』。ちなみに、後のウィーン・フィルとの録音は抜粋版です。
何曲かの『メロドラマ』はあくまで台詞のBGMであって、短いモチーフを繋いだだけの、単独で演奏されるようなものではないけれども、他のナンバーの合間に演奏されると中々面白いものがあり、また違った味わいが出てくる。
例えば「結婚行進曲」の前には、管楽器による華やかなファンファーレ風の導入部(「序曲」のモチーフを流用)が付いたり、その「結婚行進曲」の音楽は最後に再び現れて、それが遠ざかってエコーのように響き、「序曲」の細かく動く弦楽器のモチーフが重なり、そこから、やはり「序曲」のモチーフを引用した「終曲」へと繋がってくのだ。
また、コーラスを児童合唱が担当することで、よりメルヘンチックな雰囲気が出ている。
▲ T・ダウスゴー指揮/スウェーデン室内管弦楽団
2014年録音。プレヴィンと同じく完全全曲盤。
古楽器オケ風のすっきりとしたサウンドと音楽。(おそらく)弦は少人数で、トランペットはナチュラル・トランペット。
▲ F・ブリュッヘン指揮/18世紀管弦楽団
1997年録音。
ブリュッヘンと言うと、個人的にはリコーダー奏者のイメージが未だに強いのだけど。
テンポ設定は落ち着いていて、音楽の表情も大きく、ロマン的な雰囲気が濃い。
古楽器のサウンドによって中和されているけれども、もしモダン・オケを振っていたなら、ずいぶんと巨匠風の大柄な演奏になっていたのではなかろうか。
▲ H・シェルヘン指揮/ライプチヒ放送管弦楽団
1960年録音。
ドイツ語のナレーション付きの演奏。
以外にソフトなタッチ。「序曲」の再現部の前やコーダでの極めて遅いテンポによる沈んだ表現はシェルヘンならでは。
しかし、何と言ってもブッ飛ぶのは「結婚行進曲」のテンポの速さ。
指定が「アレグロ・ヴィヴァーチェ(Allegro vivace)」なのだから、ある程度速くて当然かもしれないけれども、それにしても、ほとんど2分の2拍子の感覚(スコアは4分の4拍子)。
シェルヘン先生、やっぱり一筋縄ではいきません。
▲ O・クレンペラー指揮/フィルハーモニア管弦楽団
1960年録音。
色調はどんよりとした曇り空、湿度もじっとりと高め。明るいメルヘンの世界ではなく、森の奥深くにあるお城での出来事(ちょっとホラー)。
遅めのテンポで堂々とした「序曲」。「ベルガマスク舞曲」のテーマでは、さらにテンポを落として、リズムの2分音符を一つ一つの踏みしめる。
「スケルツォ」は遅い。木管楽器が16分音符を無理なく吹くにはこのテンポだろうけれども、さすがに別物になってしまっている。
ただ、この「スケルツォ」を除けば、悠然とした余裕のある音楽運び、ロマンチックな雰囲気は素晴らしく魅力的で、昔から『名盤』として知られているだけある。
特に「間奏曲」は、このテンポでこそ、この音楽が生きるのではなかろうか(他の演奏は速すぎる)。
▲ R・クーベリック指揮/バイエルン放送交響楽団
1964年録音。
大らかな演奏かと思いきや、意外に速いテンポでサクサクと進んでいく。
「序曲」「スケルツォ」などはともかく、「妖精の歌」の二重唱も速い。「夜想曲」冒頭のホルンのソロが終わって弦楽器が入ってくると、また急いでいるように前のめりになってしまう。
ロマン的な雰囲気よりも、むしろ現代的なドライな印象がある。ちょっと予想外の展開。
ちなみに、弦楽器が対向配置になっていないのは録音年代のためだろうか。
カップリングはウェーバー作曲の「オベロン」序曲、「プレチオーザ」序曲、祝典序曲。
▲ E・オーマンディ指揮/フィラデルフィア管弦楽団
1976年録音。
明るくカラフルなサウンド。ディズニー映画的な華やかなファンタジー。
トランペットの威勢の良い吹奏で始まるのは豪華絢爛たる「結婚行進曲」。
通常はカットされる「情景(メロドラマ)」を何曲か挿入した構成も気が利いている。
オーマンディ、侮るなかれ。
【全曲(映像)】
▲ 小澤征爾指揮/水戸室内管弦楽団
2009年ライブ録画。
息子さんである、俳優の小澤征悦による語り付き。
カットはあるものの、メロドラマも入れての、ほぼ『全曲版』。オケも上手だし、この手の企画ものとしてとても楽しめました。
小澤父子、演奏後に2人でハイタッチしたり、さりげなく父の肩に手を置いたり。余所行きの他人行儀でない、父子故の微妙な距離感がとても面白いです。ちょっと照れ臭いような。
演奏者も含めてオザワ・ファミリーによるコンサート。
自分のことを慕っている仲間に囲まれた小澤さん(@父)は、とても幸せそうに見えました。
【組曲】
▲ C・デュトワ指揮/モントリオール交響楽団
1986年録音。
明るくて柔らかいサウンド。ティンパニや金管は抑え目、軽快で爽やか、野暮ったさは全く無し。
「序曲」は速目のテンポ。前のめりのリズムで進むので、ちょっと忙しない感じもする。
「スケルツォ」も速い。木管の16分音符(特にクラリネット)の限界のテンポ設定か。
「結婚行進曲」は色彩感はあるけれども、決して華美になり過ぎない節度がある。頭の中にある、この曲のイメージにピッタリの演奏。
「序曲」+4曲の抜粋版。曲想はデュトワに合っていると思うので(バレエ音楽みたいなところもあるし)、できれば歌も入れてあと何曲か録音してほしかったです。
▲ E・アンセルメ指揮/スイス・ロマンド管弦楽団
1960年録音。
序曲と「スケルツォ」「夜想曲」「結婚行進曲」の4曲。
曲数は少ないのだけれども、演奏はとてもいい。
まずは序曲が素晴らしい。冒頭のサラサラとした弦楽器の響き。トゥッティからはオケを明るく鳴らし、活き活きと、本当に楽しい物語の雰囲気を作り出している。
「夜想曲」ではホルンとバスーン(バッソン)のアンサンブル柔らかい響き。
「結婚行進曲」は最初のトランペットこそ華やかだけれども、主部に入ると意外に落ち着いた大人の雰囲気がする。
【序曲】
▲ C・アバド指揮/ロンドン交響楽団
1984年録音。
明るいサウンドはイイのだけれども...。
最初の弦楽器のテーマは速目のテンポで進められ、トゥッティになっても変わらない。
しかし、クラリネットの第2主題あたりからリズムが重くなり始め、次第に遅くなり、それは再現部の終わりまで変わらない。
そして冒頭の弦楽器が再現するとまた最初のテンポに戻るのだけれども、このふらふらするテンポ感が、なんとも居心地が悪いのだ。
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