チャイコフスキー バレエ音楽「眠りの森の美女」から
CD
■ P・チャイコフスキー作曲/バレエ音楽「眠りの森の美女」
組曲盤、および、抜粋盤のCD。
【組曲盤】
一般的な『組曲』は以下の5曲(作曲者自身によるものではない)。
1.序奏とリラの精
2.アダージオ(パ・ダクシオン)
3.パ・ドゥ・カラクテール(長靴をはいた猫と白猫)
4.パノラマ
5.ワルツ
ただ、バレエ全曲版を聴いてしまうと、この5曲だけでは何とも物足りない。コンサートならともかく、やっぱり最低ハイライト盤は聴きたい。
▲ カラヤン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1964年録音。私が昔から聴いていたのがこの録音。17センチLP盤の裏表に収録されてました。
当時は他の演奏のレコードを買うような経済的余裕は無く、こればかり聴いていたけれども、いくつもの演奏を聴いた今聴いても、とてもいい演奏だと思う。
引き締まった音楽。オーケストラのサウンド、特に弦の響きに気品がある。ワルツのリズムが妙にぎこちないのが面白い。
後のベルリン・フィル盤はあまりにカラヤン臭が強いので、私はこちらの方が断然好き。
「3大バレエ」の『組曲』が収録された輸入盤。
▲ カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年録音。
最初の2曲のこれでもかとばかりの、力技の盛り上げがスゴイ。限界ぎりぎり、前者(リラの精)ではトランペットの音が、一瞬ひっくり返ってしまっている。
カラヤン&BPOのコンビを聴く録音。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1990年録音。「3大バレエ組曲」を収録した国内盤。
企画としての「組曲版」の録音だったのかもしれないけれども、今ひとつまとまりきれていない感じのする演奏。
「バラのアダージオ」は何の情感も無くサクサクと前へ進み、テンポの遅い「ワルツ」も重い。
サウンドも、このオケならではの魅力は少ない。
アンコール曲としてよく取り上げている「パノラマ」は、遅いテンポで丹念に描かれ、さすがに聴かせるけれども(演奏時間はカラヤンよりも1分以上長い)、後年の録音の方がより魅力がある。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1978年のメロディヤ録音。
1曲目の「序奏とリラの精」。相当に荒っぽいけれども、ものすごい勢いで始まる。なぜか、シンバルと銅鑼のソロをカット。
そしてトランペットは、後の録音では聴くことのでいない『音』を聴かせてくれる。好きな人ならば、これを聴くためだけにでも、このCDを入手する価値はある。
遅いテンポによる「バラのアダージオ」は、腰の落ち着かない急ぎ足の1990年盤よりも断然素晴らしい。カデンツァではハープが派手なグリッサンドを加える。
しかしエンディングの盛り上がり、「ここ!」という聴かせ所でトランペットがミスってしまう(テンポを勘違いした??)...さすがにこれは録り直してほしかった。
組曲版としては1990年録音盤の方が入手しやすいと思けれど、演奏についてならば、こちらを取りたい。クセが強いので一般向けではないかもしれないけれど...。
ちなみに、1曲目から2曲目のハープのカデンツァが終わるまでが1つのトラックになっていて、弦楽器のメロディが始まるところから2トラック目。ここら辺も相当にアバウトな感じ。
カップリングは「白鳥の湖」。
▲ M・ロストロポーヴィチ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1978年録音。まだカラヤン時代のベルリン・フィル。しかも、カラヤンお得意のチャイコフスキー。
ロストロ氏の意気込み、力の入り方がヒシヒシと伝わってくる、自分の気持ちを前面に出した演奏。
繊細さには若干欠けるけれども、表面を整えただけの演奏よりは、はるかに面白いのは確か。
白鳥の顔がちょっと不気味です...
▲ R・ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団
1984年録音。フィラデルフィア時代のムーティってこんな曲も録音していたんですね。
ちょっと合わないような気もしたけれど、これが意外に良くて、パワフルなオケを豪快に鳴らして、スケール感のある音楽。結構楽しめます。
カップリングは「白鳥の湖」。フェドセーエフと同様、「終曲」を各国の舞曲に差し替えた選曲。
▲ E・ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1979年6月8日、NHKホールでのライブ録音。
いわゆる「組曲版」から4曲の抜粋。同じ日のグラズノフ同様、客席での録音のように聞こえる。
「序奏」の素晴らしい音楽の勢いに圧倒される。見事に統率された弦楽器。
しかし、「パノラマ」や「ワルツ」の弱音やニュアンスなどは、この録音では捉え切れていないと思うし、「リラの精」の木管楽器も遥か遠くの方で鳴っている感じがする。
しかし、この演奏を客席で聴いていれば、どれだけ素晴らしい演奏だったことか...その片鱗が聴き取れるだけに、もどかしさで身悶えしてしまうのだ。
カップリングは同じ日に演奏された、グラズノフ作曲の「交響曲第5番」。
▲ E・スヴェトラーノフ指揮/NHK交響楽団
2000年10月、NHKホールでのライブ録音。第3曲をカットした4曲の演奏。
当然ながらロシア(ソビエト)のオケのようなパワーは無いけれども、第1曲の後半部分(リラの精)や、第2曲などのゆったりとしたテンポの伸びやかな、スケール感のある音楽はとても魅力的。
「ワルツ」の最後の音をフェルマータで延ばすのはともかく、第2曲の最後の和音にスコアにない打楽器を加えて大きくクレッシェンドするあたりは、いかにも『らしい』けれども、やや違和感もある。
【組曲+α】
▲ C・マッケラス指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1987年録音。
「組曲」の5曲の後に、「3人のイワン」(「パ・ド・ドゥ」のコーダ)、「ポラッカ」(第3幕の「ポロネーズ」)の2曲を追加した選曲。
組曲版については、最初の2曲が内容的に重いのに比べ、最後が「ワルツ」で終わるのは尻つぼみのような印象を持っているのだけれど、この2曲を加えることで上手くバランスが取れているように感じる。
マッケラスは、ウィーン・フィルとのヤナーチェクの録音が話題になったこともあったけれど、(日本では)今ひとつ人気が出てこない。でも、私はとても好きな指揮者だ。
この曲も、軽量級ではあるけれども、明るいサウンドでスッキリとまとめられていて、音楽に嫌味が無いし、品がある。
「パノラマ」のテンポはとても速いけれど、このテンポで演奏するとまた別の面白さが感じられる。
演奏時間は...
マッケラス 2:39
カラヤン&BPO 3:19
フェドセーエフ 4:29
カップリングは「白鳥の湖」ハイライト。
【ハイライト】
▲ L・ストコフスキー指揮/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
1965年録音。自由な選曲による抜粋版。
有名な「ワルツ」や「バラのアダージオ」も入っていて、最後は堂々たるテンポの「アポテオーズ」で、見事な大団円となる。
カットがあったり、楽譜が改変されていたり、テンポ設定なども一般的な演奏とは異なったりしているけれども、自らの中から溢れ出てくる熱いものを、そのままぶつけたような音楽だ。
『音』も含めて、抵抗がある人は最初からダメかもしれないけれども、入り込んでしまうと最後まで一気に聴き進んでしまう魅力を持っている。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1999年録音。
フェドセーエフ自身による組曲(Grande Suite)。
1.行進曲(プロローグから)
2.踊りの場面
3.パ・ド・シス
4.ワルツ
5.パ・ダクシオン(チェロのソロ)
6.オーロラ姫のヴァリエーション
7.パノラマ
8.青い鳥
9.マズルカ
10.サラバンド
11.銀の精
12.オーロラ姫とデザイア王子のアダージオ(バラのアダージオ)
早い話が、フェドセーエフの好みの曲を集めた組曲。情感のあるナンバーを中心に、曲によってはカットも加えている。
「マズルカ」は中間部で大きくテンポを落として濃厚な音楽を作る。
「ワルツ」「パノラマ」も含め、1990年録音の「組曲盤」よりも断然素晴らしい。
バレエのハイライトと言うよりも、あくまでフェドセーエフを聴く録音。
▲ H・レーグナー指揮/ベルリン放送管弦楽団
1980年録音。
金管、打楽器を抑えた柔らかなサウンドと、ほの暗いトーン。
「踊りの場面」や「パ・ド・シス」の「アダージオ」など、とても繊細な響きがする。「ワルツ」もデリケートな情感があって、中間部から主部へ戻る部分などは、とても洒落ている。
序奏から、プロローグの「パ・ド・シス」までを全て収録。その後に有名な「ワルツ」で前半終了(LPではここまでがA面)。
後半は第2幕のオープニング(狩りの情景)とチェロの独奏によるパ・ダクシオン。
第3幕から「パ・ド・カトル」の一部と終曲(マズルカ)、アポテオーズ。
一般的な『組曲』に入っているのは「ワルツ」と「序奏」のみ。
普通の抜粋版なら第3幕からもっと色々入るだろうし(第2幕の代わりに)、肝心の「パ・ド・ドゥ」も無しという、指揮者の好みを前面に出した、『裏ハイライト版』的な選曲。
【「オーロラの結婚」】
▲ L・ストコフスキー指揮/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
1976年録音。
ディアギレフが、自身のバレエ団のために「眠りの森の美女」の音楽を抜粋して作ったバージョン。
デュトワもこの版で録音しているけれど、有名な「ワルツ」や「バラのアダージオ」は収録されていないので、一般向けではないかも。
ただ、「パ・ド・ドゥ」の「アダージオ」が入っているので、個人的にはOK。
全体的には正攻法だけれども、スケール感もあり、やはり、お得意の分野なのだと思う。
序奏でのクローズアップされたハープのグリッサンドなどは、いかにもストコ的で楽しい。
最後はオリジナル版と同様に「マズルカ」「アポテオーズ」で終わる。やっぱり「眠り…」はこれで終わってほしい。最後の音を引き伸ばして、打楽器をクレッシェンドさせるあたりは、スヴェトラーノフを思い出した。
ただ、アンサンブルが大きく乱れる部分があったり、オーケストラを御し切れていないように感じる部分もあって、やはり年齢的なものなんだろうか...と、ちょっと寂しい気持ちにもなった。
▲ C・デュトワ指揮/モントリオール交響楽団
1992年録音。
ディアギレフによって、自身のバレエ団の上演のために編まれた短縮版で、有名な「ワルツ」や「バラのアダージオ」は含まれていない。
いつもながらの明るく、洗練されたサウンドは安心して聴ける。短い舞曲系のナンバーが多いのもデュトワ向きだし、木管楽器のソロもいい。
各ナンバーを、リピートなどもカットせずにキチンと演奏しているところも嬉しい。
終曲の「マズルカ」も譜面通りに通すと、しつこいくらいに派手で、2拍子に変わってドンチャン騒ぎのコーダの最後の音で突然の転調。金管楽器のファンファーレが鳴り響き、厳かな「アポテオーズ(大団円)」となる。
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