チャイコフスキー バレエ音楽「白鳥の湖」から
CD&DVD
■ P・チャイコフスキー作曲/バレエ音楽「白鳥の湖」から
組曲版、抜粋版(ハイライト)のCDとDVD。
▲ カラヤン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1965年録音。
ウィーン・フィルによる音色の素晴らしさと、やり過ぎない品の良さ。ロシア的な土臭さを求めなければ、まず申し分ない。
出版されている一般的な「組曲」は下記の6曲(これは作曲者自身によるものではない)。
1.情景
2.ワルツ
3.4羽の白鳥の踊り
4.パ・ダクシオン
5.ハンガリーの踊り
6.終曲
「6」はバレエの大詰め、第28番「情景」と、アタッカで続けて演奏される第29番「終幕の情景」の途中までが採用されていて、静かに曲を閉じるような構成になっている。
カラヤンはこの6曲目を、組曲版の「終曲」の後、つまりオーボエが「白鳥のテーマ」を奏するところから幕切れまでの音楽に差し替えている(一部カット有)。
こちらの方がはるかにドラマチックではあるけれども、この組曲の締めくくりとしては劇的に過ぎるような気もする。
「4」のソロは Josef Sivo(violin) と Emanuel Brabec(cello)。
▲ H・レーグナー指揮/ベルリン放送管弦楽団
1981、82年録音。
1.序奏
2.ワルツ
3.バ・ド・ドゥ
4.四羽の白鳥の踊り
5.情景
6.ハンガリーの踊り
7.スペインの踊り
8.ナポリの踊り
9.マズルカ
10.情景
11.終曲
元はLPで出ていて、収録時間は45分。バレエのハイライトというよりも、組曲の拡大版といった感じ。
「3」は浅田真央のフリー・プログラム(フィギュア)に使われた曲。
オーボエのソロで始まる序奏は有名な「情景(5)」と同じロ短調。こちらも素晴らしい旋律で、クライマックスでは打楽器のロールの上にトランペットが高らかに鳴り響く。
音楽はやがて静まるけれども、この悲劇的な雰囲気を引きずったまま「ワルツ」が始まる。
自在な表情が付けられた「ハンガリーの踊り」の前半部分はバレエ音楽の域を超えているし、「マズルカ」の中間部も大きくテンポを落として仕切りなおす。
フィナーレのコーダではハープのアルペジオから、何かに追い立てられるようなエンディング。
華やかさ、賑やかさとは縁の無い、暗い色調で覆われた、独特の音楽。
▲ L・ストコフスキー指揮/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
1965年録音。国内盤。カップリングは「眠りの森の美女」抜粋と「ロメオとジュリエット」。
「情景」から始まる一般的な組曲版とは異なり、バレエの曲順に並べられたされたハイライト版。
濃厚な味付け。メロディを大きく歌い上げる、スケールの大きい大柄な音楽。色々言われるけれども、この音楽のツボはキッチリ押さえている。
ただ、LP片面に収めるためか各曲のカットも多く、あれよあれよと言う間に先へ進んでしまう感じがする。
もっと時間に余裕があれば、もっと違ったハイライトになったのだろうか。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1990年録音。
1.情景
2.ワルツ
3.4羽の白鳥の踊り
4.情景(パ・ダクシオン)
5.ハンガリーの踊り
6.スペインの踊り
7.ナポリの踊り
8.マズルカ
「5」までは組曲版の通りで、「終曲」を「6」以後の3曲に差し替え。個人的にはこの方がまとまりがいいと思う。
「5」はトライアングルの代わりにタンバリンを使用。
いわゆる『本場物』。やたらと、指揮者自身が前面に出る演奏も多い中、まずはチャイコフスキーの音楽を強く感じさせてくれる。
有名な「情景」では、オーボエのメロディだけではなく、バックの弦楽器のトレモロに耳が行く。
弦楽器を中心にしたサウンド。決して力任せにはならず、ロシア的なアクの強さも少ないので抵抗無く聴けると思う。
▲ M・ロストロポーヴィチ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1978年録音。組曲版。
「終曲」はもちろん、「パ・ダクシオン」の追加されたコーダなど、『組曲』をそのまま(カットも無しに)演奏していて、そういう意味では貴重な録音。
この版では、確かに「終曲」はちょっと物足りない感じもするけれど、最初の「情景」の情感は素晴らしいし、変なクセが無いので、同じベルリン・フィルを振ったカラヤン盤などよりは、よほど一般向けだと思う。
「終曲」はそれなりには面白い曲だけれども、『組曲』ならばフェドセーエフのように、舞曲系を並べた方がまとまりがあるように思う。
▲ C・マッケラス指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1987年録音。カップリングは「眠りの森の美女」。
収録曲は以下の通り。
1.ワルツ
2.情景
3.白鳥たちの踊り(第13番から)
4.パ・ド・ドゥ(第5番から)
5.ハンガリーの踊り
6.終景
「6」は第28番の途中(Allegro vivace)から幕切れまで。
まずは選曲がよくて、「組曲」に入っているナンバーをすべて含めてた上で、40分程度にまとめている。「ハイライト」として通して聴くにはちょうどいい。
演奏は優雅で上品な雰囲気があり、特に「パ・ダクシオン」でのヴァイオリンのソロ(Barry Griffiths)は絶品。
▲ H・V・カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年録音。VPO盤と同様、6曲目をバレエの終曲に差し替え。
まずは「情景」のオーボエの音色から引き込まれる。けれど、「ハンガリーの踊り」の前半部などは、あまりに重々しく、オーバー・アクション。
「終曲」も細かいことは置いておいて、パワーと、指揮者のキャラで一気に押し切る、あくまで『カラヤンの』音楽。
▲ E・オーマンディ指揮/フィラデルフィア管弦楽団
1972年録音。
序奏ではなく、華やかな第1幕のオープニングで始めるところがオーマンディ。
豊かに、豪快にオケを鳴らして、テンポも堂々と落ち着いている。
オーケストレーションの変更や細かいカットはあるけれど、有名な「ワルツ」は途中を大胆に(?)バッサリとカット、原曲の半分くらいの長さになってしまっている。
それさえ気にしなければ、選曲、演奏共に申し分なしのハイライト盤。オーマンディ、侮るなかれ。
贅沢を言えば、第1幕の「乾杯の踊り」も聴きたかった。
▲ Y・シモノフ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1993年録音。
いわゆる「組曲版」の「終曲」以外をそのまま演奏(「ハンガリーの踊り」で終わる)。
その「ハンガリーの踊り」最後のダイナミックの付け方などは、いかにも面白い。
演奏については申し分なく、あえて言えば、これが全盛期のロシアのオケだったら...というくらい。
「終曲」はともかく、舞曲系のナンバーをあと何曲か入れてくれれば、さらに嬉しかったです。
カップリングは「くるみ割り人形」ハイライト。
▲ E・アンセルメ指揮/スイス・ロマンド管弦楽団
1959年録音。昔は『全曲盤』となっていましたが、実質は抜粋盤。
演奏は素晴らしいです。詳しくはこちらを。
▲ E・ボールト指揮/ロンドン新交響楽団
1960年録音。ちょっと変わった選曲。
1.情景
2.ワルツ(第3幕)
3.四羽の白鳥の踊り
4.ワルツ(第1幕)
5.パ・ド・ドゥ(第2幕)
6.マズルカ
7.情景(第3幕のオープニング)
さらっと演奏するかと思いきや、最初の「情景」では有名なオーボエの旋律を大きく歌い込み、続くホルンも思いっきり強奏される。
オケの音は今一つだけれども、柄の大きい、力強い音楽が聴ける。
ただ有名な「ワルツ」に妙なカットがあったり、選曲も含めて愛好家向け。
【映像】
以下は映像ソフト。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1991年、フランクフルトでのライブ録画。
選曲は下記の通り。バレエのストーリ順ではなく、あくまでコンサート用の組曲として並べられています。
1.情景
2.マズルカ
3.白鳥の踊り
4.小さな白鳥の踊り
5.ワルツ
6.パ・ダクシオン
7.スペインの踊り
8.終幕の情景
昔出ていたLDでは「6」はカットされていました(収録時間の関係?)。
「白鳥の湖」のハイライトとしては選曲、演奏共に申し分なし。私が一番よく聴く(観る)「白鳥…」はこれ。ただし、画質はあまりよくないです。
リズムもサウンドも重量級。特に弦楽器は素晴らしく、「ワルツ」の冒頭のような最弱音から、どっしりと分厚い響きまで。
フェドセーエフは、冒頭の「情景」から一気に音楽に没入する。
お得意の「スペインの踊り」を観ることができるのも嬉しくて、このコンビのコンサートのアンコールではお馴染みの光景だけれども、この曲に全てを賭けているような打楽セクション。
フィナーレは「白鳥のテーマ」のトゥッティの部分から始まり、コーダは何かに追い立てられるように、怒涛のエンディングとなり、会場からの「ブラヴォー」も納得できる。
カップリングは「交響曲第3番『ポーランド』」と、プレトニョフがピアノを弾いた「協奏的幻想曲」。
▲ W・サヴァリッシュ指揮/イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
2001年のライブ録画。
イスラエル・フィルを振っての「白鳥の湖」...何とも珍しい組み合わせ。
一般的な組曲版をベースに、ファンファーレから始まる第3幕のワルツを追加、「ハンガリーの踊り」を「ナポリの踊り」に差し替え。
問題は「終曲」で、かなり強引な(無茶な?)カットがある。
演奏は悪くないにしても、選曲(カット)が中途半端だし、映像的にも肝心の指揮者があまり映されなかったり、また音も良くない。
「貴重な(珍しい)映像だけれども・・・」といったところ。
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