ハチャトゥリアン バレエ音楽「ガイーヌ」から
CD
■ A・ハチャトゥリアン作曲/バレエ音楽「ガイーヌ」より
作曲者以外の指揮による「ガイーヌ」の録音。
原典版による3つの組曲があるけれども、人気曲・有名曲が分散しているので、指揮者が独自に選曲している録音がほとんど。
ただし、アニハーノフ盤は記載が紛らわしいので要注意。
▲ Y・シモノフ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1994年録音。収録曲は下記の6曲。
1.剣の舞
2.バラの少女たちの踊り
3.子守唄
4.レズギンカ
5.アイシェの踊り
6.ゴパーク
本屋さんや駅の構内で激安(500円とか)で売られているCD。でも、演奏は充実。単なる爆演で終わっていないところがさすが。
「剣の舞」の中間部、メロディは3拍子で伴奏は4拍子という対比の面白さを強調。「子守唄」はこの曲が「バレエ(=踊りの)音楽」であることを感じさせてくれる。
「レズギンカ」のドラムは普通の小太鼓で演奏しているけれども、決して出しゃばらず、ひたすらリズムキープに徹する。ホルンとトランペットのオブリガートをレガートで朗々と歌わせる。
ただ、改訂版を使っているので、これだと「アイシェの踊り」は今ひとつ物足りない。
カップリングの「仮面舞踏会」は「ロマンス」「夜曲」「ワルツ」の3曲だけ。とは言うものの、この「ワルツ」も速めのテンポで、打楽器を強打しつつグイグイ前へ進む素晴らしい演奏。
有名なナンバーが聞ければOKという向きには、圧倒的にコスト・パフォーマンスがいい一枚。
▲ G・ロジェストヴェンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1961年(?)録音。
1.剣の舞
2.子守歌
3.ヌーネの踊り
4.山岳人の踊り
5.ガイーヌのアダージオ
6.若いクルド人の踊り
7.若い娘たちの踊り
8.レズギンカ
ひょっとすると、ムラヴィンスキーのグラモフォン録音(チャイコフスキー)と同時期に行なわれたものかもしれない。そうだとすると、モスクワ放送響の指揮者になる直前の録音。
若かりし日のロジェヴェン氏とムラヴィンスキー時代のレニングラード・フィルのコンビ。もっと注目されても良いと思うけれども、寄せ集めの廉価盤CDの片隅にヒッソリと入っている。
オケによるのか、アクの強さは意外に無く、ある意味真っ当な演奏。「ガイーヌ」の抜粋盤をどれか一つとなると、選曲も含めてこれが一番かもしれない。
ここに含まれていないものとしては「アイシェの目覚め踊り」だけども、これは作曲者自身が指揮したVPO盤があればOK。
「レズギンカ」のドラムはリム・ショットなどを入れて、中高生の吹奏楽部員がこの曲を演奏するとき、一番参考になる(真似しやすい)のではなかろうか。
ちなみに、映画「2001年宇宙の旅」の中で使用されていた「ガイーヌのアダージオ」はこの録音です。
▲ K・カラビッツ指揮/ボーンマス交響楽団
2010年録音。カラビッツはウクライナの若手指揮者。
1.友人たちの踊り
2.じゅうたん刺繍
3.レズギンカ
4.ウズンダアラ
5.娘たちの踊り
6.情景と踊り
7.アイシャとガイーヌ(子守唄)
8.アイシャのモノローグ
9.山岳人の踊り
10.剣の舞
11.ゴパーク
明るく華やかな雰囲気。強烈なキャラや泥臭さはないけれども、手堅くまとまっている感じで、有名曲はほぼ入っているし(ただし「ガイーヌのアダージオ」は無し)、選曲もバラエティに富んでいるので中々楽しめる。中でも「山岳人の踊り」はこれが一番かも(鐘の音も効果的)。
ただし改訂版による演奏なので、「アイシャとガイーヌ(子守唄)」最初のフルートのソロが無かったり、「アイシェの踊り」の対旋律がアルト・サックスではなくフルートだったりと、これは物足りない(演奏の問題ではないけれども)。
「レズギンカ」のリズムは響き線を付けた小太鼓で演奏。所々アクセントを付けてはいるけれども、ちょっと中途半端な感じ。
▲ E・スヴェトラーノフ指揮/ボリショイ劇場管弦楽団
2000年録音。
1.バラの娘たちの踊り
2.アイシェの踊り
3.山岳民族の踊り
4.子守歌
5.ヌーネの踊り
6.アルメンのヴァリエーション
7.ガイーヌのアダージオ
8.レズギンカ
9.タンバリンを持った踊り
10.剣の舞
原典版から10曲の抜粋で、選曲的には申し分ない。曲としては9曲目の「タンバリンを持った踊り」が珍しい。
遅いテンポ、垢ぬけしない重いリズム、ドカドカと打ち込まれる打楽器など、この指揮者ならではと思うけれども、全体的にユルく、隙間風が吹いているような感じがする。オケにももっとパワーがほしい(特に弦楽器)。
しかし「山岳人の踊り」(3曲目)の途中に現れる「8分の7拍子」にはタマげた。
8分音符で「♪2+2+3」のリズムの、最後の「3」を3連音符として演奏しているのだ(文章では説明し難いけど...結果4分の3拍子になっている)。
指揮者の勘違いとしか思えないけれども、オケもこの『解釈』に戸惑っているのか、アンサンブルがぐちゃぐちゃに乱れて、さすがにこれはいただけない。
20年前にソビエト国立響と録音してくれれば...そう思ってしまう。
▲ H・シェルヘン指揮/ウィーン国立歌劇場管弦楽団
1957年録音。ちなみに、この曲が初演されたのが1942年なので、その15年後の録音ということになる。
収録曲は下記の様に記載されているけれども、最後の2曲の曲順が逆になっている(実際は「レズギンカ」が最後)。
1.剣の舞
2.子守唄
3.バラの少女たちの踊り
4.若いクルド人の踊り
5.レズギンカ
6.クルド人の踊り
少なくとも「剣の舞」と「レズギンカ」については、一般人が想像(期待)する演奏とは全く方向性が違っている。
まず「剣の舞」。いわゆる「民族性」とは無縁。冒頭のリズムはコミカルであり、金管の合いの手も調子っぱずれ。スヴェトラーノフと比べると、同じ譜面を演奏しているとは到底思えない。
そして中間部。タンバリンの後打ちが止まりそうに...実際に何度も止まってしまう。さらにはティンパニも1小節抜け落ちてしまう。そんな...
「レズギンカ」のスネア・ドラムも相当に危なっかしい。さすがに止まりはしないけれども、何だかよろよろとしている。こういったメカニカルな曲が苦手なのだろうか。
「今度、自分達で演奏することになったので、そのお手本に...」という用途には全く向かないことは保証します。
ただ、「子守唄」「バラの少女たちの踊り」などはローカルな雰囲気が出ているし、何の予備知識無しにスコアを音にすればこんな感じになるのかとも思ったりする。
▲ V・フェドセーエフ指揮/モスクワ放送交響楽団
1993年録音のMUSICA盤。
1.レズギンカ
2.若い娘たちの踊り
3.ガイーヌのアダージオ
4.長老の踊り
5.剣の舞
ちなみに、冊子表紙の楽譜は、バレエ音楽「スパルタクス」のオープニングのピアノ・スコア。
フェドセーエフということで、どうしてもハードルを上げてしまうのだけれど、標準的なレベルで聴けば、とてもいい。
金管も打楽器もかなり鳴らしていて、重量感はあるけれども、特定の楽器を突出せずに、あくまで全体でサウンドを作っている。土臭さはあまり感じない。
「レズギンカ」のドラムはカッコイイし、民族打楽器(?)を加えた「長老の踊り」も独特の雰囲気がある。残念なのは曲数が少ないところ。
2003年のライブ録音盤(VISTA VERA)も存在するけれども、私はこのMUSICA盤の方が好きだ。
▲ A・アニハーノフ指揮/サンクト・ペテルブルグ国立交響楽団
1993年録音。原典版ではなくて改訂版(ボリショイ版)によるハイライト。
第1から第3までの「組曲」という体裁になっているけれども、全音からスコアが出版されている原典版による組曲とは全く別物なので要注意。
こういう形で出版されているのか(誰が編んだのか)は不明。
17曲収録されているものの、耳馴染みのナンバーとしては「剣の舞」「子守唄」「ガイーヌのアダージオ」くらいで、「レズギンカ」も含まれていません。
ただし曲そのものは、ハチャトゥリアン作品として十分に魅力的。
演奏もロシア的な泥臭さは無いけれど、まとまりもよく、なかなか楽しめる。
収録曲はこちら(↑画像クリックで拡大します)。
▲ A・フィストラーリ指揮/ロンドン交響楽団
1960年(?)録音。有名曲、11曲の抜粋。
1.剣の舞
2.抒情的なデュエット
3.バラの娘たちの踊り
4.ゴパーク
5.子守歌
6.レズギンカ
7.ロシアの踊り
8.ガイーヌのアダージオ
9.若いクルド人の踊り
10.長老の踊り
11.火焔
民族色は薄いけれども、西欧的なセンス、色彩感のある演奏。選曲もまず申し分ない。
ただ、本場物を聴いてしまうと、「レズギンカ」「剣の舞」などはちょっと大人しく感じる(特に打楽器)。
▲ A・ラザレフ指揮/ボリショイ交響楽団
1993年録音。収録曲は少ないです。
1.剣の舞
2.バラの乙女の踊り
3.アイシェの目覚めと踊り
4.レズギンカ
カップリングの「スパルタクス」が今一つだったので、あまり期待せずに聴いたら、これが意外に良かった。
まずは打楽器。「剣の舞」「レズギンカ」は決め所をピシッと決め、中々聴かせてくれる。
金管は相変わらず元気。弦楽器も厚みや強靭さはないけれども、これらの曲であればOK。テンポを遅めに取った中間2曲もいい雰囲気が出ている。
問題なのは木管で、「バラの少女」にしても「レズギンカ」にしても、間延びした、ぼやけた音がしている。有名な「子守唄」を入れずに「アイシェ…」を入れたのも、それ故だろうか。
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